北欧デザインといえば、シンプルで美しい家具や雑貨を思い起こす方も多いでしょう。しかし、デンマークの首都コペンハーゲンは、見た目の美しさだけでなく、人々の暮らしそのものと建築・デザインが自然に調和した「住みやすい街」として世界中で注目を集めています。
ここでは、建物は単なる“飾り”や“モニュメント”ではありません。自転車でのびのび移動し、道端にたくさんの緑があり、誰もが利用できる広場や施設があちらこちらに――そんな“日常”を作り上げるいつもの風景として、建築が大きな役割を果たしています。
コペンハーゲンの魅力的なまちづくりを象徴するものに、次の3つのスポットがあります。
- デザインミュージアム・デンマーク(Designmuseum Danmark)
- デンマーク建築センター(DANISH ARCHITECTURE CENTER)
- ブラックダイアモンド(デンマーク王立図書館 Det Kgl. Bibliotek)
これらは単なる観光スポットではありません。
デンマーク市民のライフスタイルや価値観、歴史・未来への想いが凝縮された場所です。今回では、専門知識がなくてもわかる視点で、建物の面白さと市民の生活とのつながり、そして訪れたくなる理由をじっくりご紹介します。
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デザインミュージアム・デンマーク——日常を変える北欧デザインの知恵
まるでタイムスリップ。「歴史」と「新しさ」が同居する建物
この美術館の建物は、もともと18世紀に建てられたロココ様式のフレデリクス王立病院でした。
1926年にデンマーク近代家具デザインを行っていたコーア・クリントによってリノベーションされ、外観はクラシックな雰囲気を残しつつ、内部はとても明るくモダンに作られています。中庭をぐるりと取り囲む建物は、落ち着きがありながら開放感たっぷりです。
「古き伝統」を大切にしつつ、「新しいデザイン」も取り入れる――この両立はデンマーク建築にも多く見られます。デザインミュージアムに来ると、歴史と現代が出会い、“どちらかを捨てない”北欧らしいバランス感覚を体感できます。
使う人のことを考え抜いた「暮らしのデザイン」がズラリ!
展示されているのは、誰もが一度は目にしたことのある有名なデザイナーの椅子やランプ、食器など。
アルネ・ヤコブセンやハンス・J・ウェグナーの椅子は、今も多くの家庭や公共の施設などでも愛用されています。
「なぜこんなにシンプルなのに美しいの?」
その理由は、“ただデザインが良い”だけではなく「毎日使っても疲れない、長持ちする、でも見た目も心地よい」ということを大切にしているから。展示品の多くは“名作”である前に、実際の家庭や職場で何十年も使われてきた“暮らしの友”なのです。
訪れてこそわかるリアリティと温かさ
デザインミュージアムは、見るだけでなく「体験」できる展示が多いのが特長です。お気に入りの椅子に実際に座れる展示や、素材の質感に触れられるコーナーも。ガラス越しではなく、手や体で、北欧デザインの“やさしさ”と“あたたかさ”を感じてみてください。
館内のカフェやショップもセンス抜群。現代作家のグッズもそろい、お土産選びにもぴったりです。「毎日の暮らしがちょっと楽しく、豊かになる」そのヒントが、きっと見つかります。
Design museum Denmark 公式HP↓
デンマーク建築センター(DAC)――未来と都市をつなぐ「建築の実験室」
「建物」以上の役割。市民参加で育つ建築
Danish Architecture Center(略してDAC)が入っているのは、“BLOX”という最先端の複合ビル。
オランダの有名建築家グループOMAが設計し、透明感あふれるガラスのブロックを積み上げた外観は、まさに現代コペンハーゲンの象徴です。港沿いの風景に溶け込みつつ、新しいリズムを街にもたらしています。
建物の中は立体的で、階段や橋があちこちに。建物の中を歩いているのに、外の景色もすぐ視界に入り、空間が一つながりに感じられます。
「建物の中だけが建物じゃない」――外と中の境目をなくし、誰でも自由に出入りできる工夫がたくさんあります。
「街づくりはみんなのもの」という発想
DACは、専門家だけが使う難しい施設ではありません。大人も子どもも、地元の人も旅行者も肩の力を抜いて建築やまちづくりを考え、遊び、参加できる「オープンな拠点」です。
入り口にはみんなで座って楽しめる大きな椅子のオブジェがあったり、展示の階に上がる階段はカラフルにデザインされ、遊び心がたくさん!
さらに高さ15m・全長40mもある4階から1階まで降りることができる、らせん状の滑り台はまるで遊園地にあるアトラクションのように親子で楽しめるような、建築としても創造力を掻き立てるような工夫もあります。
ワークショップのスペースもあり、子どもたちが自分たちの理想の家や公園を模型で作ったり、若い建築家や学生は研究成果を発表したりしています。また、持続可能な住まいや、都市空間の緑化といった、今、コペンハーゲンが考えている未来の都市の展示も盛りだくさんです。
「よりよい暮らしってどんなことだろう?」と市民みんなが考え、アイデアを出し合い、実現にチャレンジしている――DACはまさにその“実験室”。「建築=建物をつくること」だけじゃない、“みんなで街を育てる”文化が感じられます。

大人も子供も「未来の都市」をリアルに体験
DACの目玉のひとつは、VR(バーチャルリアリティ)などの最新技術。スクリーン越しに、まだ生まれていない未来のコペンハーゲンや、今まさに造り替えられつつある街の姿を“自分が歩いている”かのように体験できます。
吹き抜けや屋上テラスから港町を眺める景色も壮観。太陽や風を感じ、街の変化やエネルギーを肌で味わえます。「今のデンマークが目指している未来」を、難しい解説抜きに実感できる施設です。
もちろんデンマークの建築やデザインの歴史も学べる!
So Danish!という展示ブースではデンマークの建築、都市開発、家具、インテリアについてまで、多くのデザインを解説付きの実物の展示や模型などと一緒に学ぶことができるスペースになっています。
暮らしにデザインが常に寄り添い、創造と関心を生み続ける国だからこそ、それぞれの展示も家族がみんなで楽しみながら自分たちの国について考えることができる工夫が施されているのだと実感できるのです。
DANISH ARCHITECTURE CENTER 公式HP↓
ブラックダイアモンド――知識・芸術・まちの豊かさが詰まった最新図書館
黒い外観が水辺に映える、美しいランドマーク
その印象的な名前通り、「ブラックダイアモンド」は黒い御影石とガラスでできた大きな箱のような建物です。
水面にきらきらと映る姿は、まさに“巨大な宝石”。観光写真でよく見かけるコペンハーゲンの新しい顔として、世界中の人々を引き寄せます。
この近代的な建物は、デンマーク王立図書館(Det Kgl. Bibliotek)の旧館をウォーターフロントに増築した部分。
1999年にできた比較的新しい施設ですが、外観の“重さ”とは対照的に、中へ入ると一気に視界が広がる心地よさがあります。
圧巻の吹き抜けと光あふれる内側空間
建物の中に入ると、7階まで吹き抜けた本当に大きなホール(アトリウム)が広がります。高い天井からは自然光がやさしく差し込み、出入りする人や声がゆったりと響きます。
この空間が面白いのは、「閉ざす」ことで外側にインパクトを与える一方、「開く」ことで中に入った人に解放感と安心感を与えていることです。外の厳しさと、中のくつろぎ――そのギャップも建築のドラマなのです。
図書館を超えた市民文化センター
この図書館は、たんなる本の倉庫やお勉強の場所にとどまりません。地元の人が本を読んだり調べごとをするだけでなく、カフェでくつろぐ人、展示を見に来た観光客、音楽ホールでコンサートを楽しむ市民…。「知識」にとどまらない“文化の発信地”としてにぎわっています。
アトリウムの大階段に腰かけ、港の景色を眺めるだけでも、コペンハーゲンの市民生活の一部に溶け込んだ気分に。図書館で本を選ぶワクワク、カフェでちょっと休憩、お土産を探す時間…。建築を「体験する」だけでなく「建築に包まれて過ごす豊かさ」を満喫できます。
デンマーク王立図書館 公式HP↓
さらに楽しむためのコペンハーゲン建築巡り・1日モデルプラン
3つの施設は中心部や港沿いにあり、徒歩や自転車で簡単に回れます。デンマークは自転車大国なので、レンタサイクルでのんびり巡るのもおすすめ。
朝:デザインミュージアムで、実際に椅子に座ったり、北欧デザインのやさしさを体感
昼:DAC(デンマーク建築センター)へ移動し、未来のまちを想像。屋上テラスで休憩やランチ
夕方:ブラックダイアモンドで図書館カフェに座り、港を見ながらほっと一息。本や音楽にふれる時間
それぞれ趣きの異なる空間なので、“飽きない”“無理せずじっくり過ごせる”のもポイントです。
コペンハーゲン建築の本質――過去・現在・未来をつなぐ街
この3施設を巡ることで、自分の目で、体で、「過去」「現在」「未来」のつながりを感じられるのがコペンハーゲンの面白さ。
デザインミュージアムで【過去の知恵】にふれ、DACで【未来の都市と暮らし】を体験し、ブラックダイアモンドで【今ここにある公共空間の豊かさ】を味わう。
そして、
デザインミュージアムで「道具」の進化や生活美学を学び、DACで「未来のまち」市民・設計者の協力による成長にワクワクし、ブラックダイアモンドで「文化」「知」「交流」を体いっぱいに味わう。
どの建物も「市民のために造られてきた」「人々の暮らしにも密着している」空間。デンマーク流の「いい建築」とは、奇抜さや豪華さではなく「みんなの毎日を支え、幸せでいられる」ことに重きが置かれているのです。
まとめ――建築と暮らしが響き合う街で、自分らしい旅を
コペンハーゲンを訪れたら、建物を「見る」だけでなく「建物とともに過ごし、暮らしてみる」つもりで歩いてみてください。
きっと帰国後も、日常に持ち帰りたい「心地よさ」「工夫」「人のための思いやり」が見つかるはずです。
コペンハーゲンは、建築好きはもちろん、北欧の豊かな暮らしに興味あるすべての人にとって最高の旅先です。
「観光名所を見る」から「街と暮らしに溶け込む体験」へ。北欧建築の本質をぜひ体感してみてください。
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